タイトルと文体、著者名にも個性有りまくり - おれは暗黒小説だ A.D.G. 著 岡村孝一訳

アル中の犯罪小説家がクリスマスの日に面倒に巻き込まれる話。

家出した作家は、たどり着いた先で豪邸に住む年老いた金持ちから若い妻の種馬になって欲しいと頼まれる。女と顔を合わせたところ、なんとその相手は自分の妻にしか見えない女だった……

最初から最後まで饒舌極まる一人語り。といってもハードボイルドの典型ではない。ハードボイルドの主役は自分のタフガイぶりにイカれたナルシストばかりだから。連中は、おそらくは押し殺した低い声で過剰に風景描写し、鏡の前で練習したんだろうってな他人を嘲笑う薄ら寒い台詞を嬉々として使う……って輩とは違う。

もっと軽薄ですべてを笑い飛ばしてる風。ジム・トンプスン、郵便配達員は二度ベルを鳴らす、そしてライ麦に近い。

主人公は自ら揉め事を起こしたり飛び込むタイプではなく、いつも問題に巻き込まれ続ける。唯一、率先して行動を起こしたのは娘に危害が及びそうになったときだけで好感がもてる。