灭の烏

灭の烏

マクドナルドの紙ストローについて

唇はほぼ性器である。口内は完全に性器である。そんな敏感なところを日々露出しながら生きている我々は、たった一日たりともその器官を無視して生きることはできない。

さて、暖冬のある日、世界を制限しながら生きている私にもマクドナルド値上げの情報が届いた。

人畜無害の共同幻想を売り物にするファストフードは、味は三流、商売は超一流という手合いなわけで(中略)すなわち避けるべきではあっても、新年だからいいか、ときわめて日本人的な理由で落着したのだった。

店に行くと三十年前はギャルだったであろう御面相の女子店員がテキパキと注文をとってくれた。

私は二階へ行った。ポテトを齧り、ビッグマックを頬張った。塩と脂がダイレクトに脳へパンチしてきた。美味いというにはいささか過激する味だ。それは日清のカップラーメンに入っている謎肉を本物の肉とは絶対に信じられないように、このハンバーガーもやはり本物とは言い難く……

私は黙々と咀嚼を続けている。指はテラテラと光っている。ビッグマックの断面はパサパサで肉汁はない。口はなんだかよくわからないがしょっぱいのは確かだ。爽健美茶で洗い流さねばなるまい……

ストローを口にすると文字通りゾワっときた。フレディが鋭利な刃物で、爪で窓ガラスを擦ったときに感じるあの感覚だ。

これは、紙か!


そういえば、マクドナルドはストローを紙製にしたという情報をどこかで仕入れたことがあったな……私はまたストローを咥えた。同じように気色悪かった。

私は周囲をみた。 

ホットと思しき人たち以外は皆ストローを挿している。

そして普通に飲んでいる。

why? 

なぜこれが我慢できる? 

はっきりと気持ち悪いではないか。

私は様々な可能性を考える……ひょっとしたら彼からはクンニリングスやフェラのやりすぎで口の感覚がおかしくなっているのだろうか? なるほどこれは大いにあり得ることだ。敏感な部分も摩擦や慣れによって感度が鈍くなるものだからだ。

にしてもマクドナルドめ、一体何を考えているんだ。人気取りでストローを紙製に買えたのは明白だがこんな雑な仕事をしやがって。

だが、事前に万単位の検証をしただろうし、切替後も不評が一定数いれば見直されるはず……

つまりだ、理屈の上では私の感覚がおかしい、贔屓目に見積もっても少数派なのだろう、と結論付けざるを得なかった。

私はストローを抜いた。ストローを抜く時も、キューッと柔らかなプラスチックを擦った感触が指と首筋に這っておぞましかった。

私は蓋を開けて氷を避けながら飲んだ。油と塩に塗れた残りのハンバーガーらしきものを流し込んだ。