灭の烏

灭の烏

殺し屋1

昔からヤクザ漫画は数多くあれど、『殺し屋1』連載以前と以降では大きく様相が異なっていったように思います。大げさな言い方ではなく、裏社会・アングラ漫画の流れを変えたといっても過言ではないエポックメイキングな作品です。

似た状況として、映画で『羊たちの沈黙』が登場した後のサスペンスやホラーの変化にも通じるところがあるでしょうか。十三日の金曜日などの80年代のストレートな殺人鬼と違って、より精神面の暗部が強調され、展開や謎解きも緻密で壮大な作品が増えていきました。

従来のアウトロー漫画は、人情系、勧善懲悪系、復讐系、成り上がり系で占められており、主人公は弱きを助け強きを挫く正義感や義侠心を持ちあわせた読み手が簡単に同一視できるタイプが主流でした。 ところが、この漫画は主人公が最もわけのわからない異常者なのです。描写も陰惨で現実的な恐怖を煽るようなものが多く、心理的な気持ち悪さを読み手に起こさせます。 

 

なお、作者の山本英夫先生は、この次に『ホムンクルス』という別の意味でさらにイってしまった漫画を描いています。こちらは、アウトローというより、自分探しの旅のような精神世界の話となっています。コーチングや催眠系で有名な石井裕之氏の教室に通ったり、ホームレスを体験したりと、取材だけで終わらせないアグレッシヴな行動力に脱帽です。